関係者限定:「リュミエールの不思議な絵本」ストーリー一覧
プロローグ
とある世界のとある場所。美しい海辺に「リュミエール」という名の街がありました。
街の中心には「ルミナスオーブ」と呼ばれる球体が輝いていて、住民たちが紡ぎ出す笑顔や活気がエネルギーとなって魔法の光が街を包んでいたのです。
ルミナスオーブは街に明かりを灯し、光を与え、いつもにぎわうリュミエールを象徴していました。
街はオーブの光とともに、いつも活気にあふれ、お祭りのような毎日を過ごしている…はずでした。
ある時、どこからともなく「黒い影」が忍び寄り、住民たちの心にそっと入り込んだのです。
人々からは笑顔が消えていき、互いに関わり合わなくなってしまいました。
すると街の活気はどんどんと失われ、「ルミナスオーブ」の光も弱まり、街には暗く寂しい影が広がり始めたのです。
「このままではいけない!」そう言って立ち上がった一人の勇者がいました。
かつての活気にあふれていたリュミエールを取り戻すため、黒い影たちを退けることを決意したのです。勇者は…
ここから先、絵本のストーリーを失ってしまいました。そこで異世界から来たパーティーが新しくストーリーを繋ぎ直していきます。
冒頭
リュミエールでは、年に一度「陽灯祭」という大切なお祭りが開かれます。
街は太陽のように明るい装飾で彩られ、広場にはにぎやかな音楽が響き渡り、香ばしい屋台のにおいが風に乗って漂います。
子どもたちは魔法の光が舞う通りを駆け回り、大人たちは笑顔で語らい、誰もがこの日を心待ちにしていました。
しかし――どこか少し奇妙です。
笑顔を浮かべながらも、どこか遠くを見つめる人々の瞳。
ふとした瞬間に起こる些細な言い争い。
そして、その様子を見て見ぬふりをする周囲の人々。
祭りの中心にある「ルミナスオーブ」は確かに輝いています。
しかし、その光はどこか弱々しく、頼りなく揺れているように見えました。
「ねぇ、なんだか変だと思わない?」
一人の少年の声が、祭りの喧騒にかき消されていきます。
その言葉は誰にも届かず、街はいつも通りのにぎわいを装い続けていました。
けれど、その輝きの中に、確かに「黒い影」は広がり始めていたのです。
少年の呟きが風に溶けて消えた頃、街の片隅にひっそりと、けれど確かに「五つの影」が根を張り始めていました。
ある家では「イソガシ」が時間を奪い、親子の心をすれ違わせました。
ある通りでは「シラナイ」が扉に鍵をかけ、助けの手を遠ざけました。
ある店では「ヒカク」が自信を曇らせ、大切な想いを見えなくしました。
ある工房では「キョウフ」が足元を縛り、未来への一歩を止めました。
ある丘では「フアン」が声を震わせ、歌を風に消しました。
その影たちは、まるで冷たい霧のように街に広がり、祭りの明るい光の隙間にも忍び込んでいくのです。
気づけば、子どもたちの笑い声は少しずつ小さくなり、大人たちの言葉はどこか遠くへ消えていくようでした。
誰もが、心のどこかで気づいていました。
――このままでは、リュミエールの光が消えてしまう、と。
けれど、かつて街を救った勇者の物語はもうどこにも見当たりません。
静かな風が、祭りの旗を揺らしました。
遠くから、小さな光の粒がふわりと舞い降りてきます。
物語はまだ終わりません。
これは、今を生きる“誰か”の手によって、新しいページがめくられる時なのです。
五つの影イメージ

勇者を失い、つながりが途切れ始めた街。
けれど、その代わりに現れたのは、異世界から迷い込んだ者たちでした。
彼らは特別な力を持っているわけでも、英雄のような武勇伝があるわけでもありません。
ただ――「つながることの大切さ」を、知っている者たちでした。
これは、魔王を倒す物語でも、悪を滅ぼす冒険でもありません。
人と人とを、もう一度つなぎ直すための、小さな物語です。
けれど、一人では何も変えられない。
必要なのは、
信じ合える仲間、
支え合える仲間、
共に歩める仲間。
「ねえ。」
ふと、あの少年が声をかけてきました。
「あなたはなんだか違うね。もし何かを探しているなら、広場の先にある酒場に行くといいよ。そこには、あなたみたいに何かを変えたいって願う人たちが集まってるらしいから。」
祭りの賑やかな音が遠のき、薄暗い灯りが揺れる酒場。
そこには、心に小さな光を灯した者たちが、きっと集まっているはずです。
冒頭のストーリーを手に入れた異世界の冒険者はパーティーを組み、リュミエールのショートストーリーを集めます。
ショートストーリー
魔法使い編01
リュミエールの街角。夕暮れの光がやわらかく広場を包み込む中、二人の少女が向かい合っていました。
エマとセレナ——かつてはいつも一緒に笑い合う大の仲良しでした。けれど、ほんの小さなすれ違いが、二人の間に冷たい壁を作ってしまったのです。
「どうして、ずっと私を無視するの?」
「無視なんてしてない……でも、…もういいよ。」
言葉のあとには、静かな沈黙だけが流れました。
そのとき、どこからかひょっこりと魔法使いが現れました。ふわりとしたローブをまとい、優しい瞳で二人を見つめています。
魔法使いは、懐から小さな魔法の鏡を取り出しました。
「この鏡にはね、本当の気持ちが映るんだよ。」
エマは少しこわごわ鏡をのぞき込みました。そこに映った涙をこらえた自分の姿を見ると、不思議と心の声が口から出てくるようでした。
「本当は、ずっと謝りたかったんだ。でも、どう言えばいいかわからなくて…。」
次に、セレナが鏡をのぞき込みます。鏡の中には、不安そうに唇をかむ自分が映っていました。
「私も…ずっと話したかった。でも、怖かったの…。」
二人はゆっくり顔を上げて、お互いの目を見つめ合います。そして、どちらからともなく、涙まじりの笑顔がこぼれました。
「ごめんね。」
「ううん、私こそ。」
魔法使いはにっこり笑って、“ただの鏡”をそっとポケットにしまいました。
「心の中の言葉はね、言葉にしないと伝わらないんだよ。」
そう言い残すと、魔法使いはゆっくりと夕暮れの風に溶けるように姿を消しました。
広場には、二人の少女の笑顔が戻り、夕焼け空がまるで優しく微笑んでいるようでした。
魔法使い編02
夕暮れの市場は、活気と香りであふれていました。
母親は忙しそうに薬草を並べ、笑顔でお客さんに声をかけています。
そのすぐ後ろで、小さな少年が母親の背中をじっと見つめていました。
少年の手には、くしゃくしゃになった小さな紙切れ。
そこには、不器用ながらも何度も描き直した跡のある絵がありました。
「ママ…見て。」
少年の小さな声は市場の喧騒にかき消され、母親には届きません。
勇気を振り絞ってもう一度声をかけようとしたその時——
「今忙しいの、あとにして。」
母親は振り向かず、少年の心に冷たい言葉が突き刺さります。
少年は肩を落とし、涙をこらえながら紙を見つめました。
「ねぇ…ママ、……。」
そのつぶやきは誰にも届かず、少年は立ち尽くします。
すると、魔法使いが静かに現れました。
魔法使いは少年の絵に優しく触れ、絵はふわりと輝きます。
その光はゆっくりと母親の足元へと届きました。
母親はふと手を止め、足元に落ちた光に気づきました。
それは少年が握りしめていた絵でした。
母親はくしゃくしゃになった小さな紙切れを拾い上げ、ゆっくりと目を落とします。
そこには、笑顔で手をつなぐ母親と少年が描かれていました。
「…!…ごめんね。」
母親は少年を静かに抱きしめました。
少年は少し驚いた顔をした後、安心したように笑います。
市場の喧騒の中、二人の間には、温かな時間が静かに流れていました。

商人編01
リュミエールのメインストリートにある市場。二人のパン職人が向かい合って屋台を構え、互いに睨み合っていました。
「あいつより安く売る!」
「こっちはもっと美味しいパンだ!」
最初は冗談混じりだった言葉も、次第に怒りを含むようになり、客たちは足を止めるどころか、静かに市場を離れていきます。
その様子を少し離れた場所から見つめていたのは、少し変わった服装をした商人。異世界ではビジネスマンだったそうです。彼はゆっくりと二人の間に立ち、穏やかな声で言いました。
「君たちのパンは、どちらもいい香りがする。でも…今、このお店に笑顔はあるかい?」
二人の職人は言葉を失い、周りを見渡しました。そこには、どこか気まずそうな顔をした客たちや、遠巻きに見つめる子どもたちの姿がありました。
「本当に届けたかったものは、なんだった?」
商人の言葉が、夕暮れの市場に静かに溶けていきます。
二人の職人は互いに目をそらし、何かに気づいたように小さく息をのみました。
市場には温かな夕日の光が差し込み、パンの香りだけが静かに漂っていました。
商人編02
街の隅にある小さな雑貨屋。店先には無言で立つ店主の男の姿がありました。
通りを眺めていると、足を引きずりながら荷物を抱えた老人がふらついているのが視界に入りました。
「す、すまない…」
すれ違う足早な人に謝ると、老人の袋からリンゴが飛び出し、地面を転がっていきます。
しかし、雑貨屋の男は見て見ぬふりをして、黙々と棚を拭き続けました。
「俺の客じゃないし…。」
その直後、老人は足元の小さな段差に気づかず、荷物ごと階段の下へ転んでしまいました。袋の中身は散らばり、リンゴは泥で汚れます。通りかかった人々はチラッと横目で見るだけで、誰も手を差し伸べようとはしません。
男の胸に小さな後悔が広がりました。
『……さっき、声をかけていれば。』
そんな時、一人の商人が現れました。異国の装いのその商人は、ゆっくりと老人の荷物を拾い集め、そっと手を差し伸べ、独り言のように呟きました。
「助けることが、そんなに難しいことかな?」
老人は小さな笑顔を浮かべ、かすれた声で「ありがとう」と感謝しました。
雑貨屋の男は、手に持った布をゆっくりと置き、何かを言おうとして口を閉じました。そして、少しずつ老人の方へと歩き始めます。
市場には夕日が差し込み、男の影は長く伸びていきました。

職人編01
少年の父は「世界一の杖職人」として街中で讃えられていました。
工房の壁には国王からの賞状が飾られ、完成した杖を手にした偉大な魔法使いたちが父を訪れては、感謝の言葉を伝えます。
「さすが世界一の職人だ!」
「次にこの工房を継ぐのは息子さんか?」
しかし、少年の顔は曇り、ため息をついて彫刻刀を手に取ろうとはしません。今日も屋根の上に寝転がり、雲の流れを眺めていました。
そんな少年の隣に、旅の職人が静かに腰を下ろします。
「君は何から逃げているんだい?」
少年は答えられず、ただ視線を落としました。
「やってみないと何も形にはならないよ。恐怖は逃げる者を追いかけ続ける。でも、一度だけでも向き合えば、恐怖は少しずつ距離をとってくれるのさ。」
その言葉に背中を押されるように、少年はゆっくりと彫刻刀を手に取りました。震える手で、小さな木片に刃をあてます。その動きはぎこちなく、不器用でしたが、確かに一歩を踏み出していました。
窓の外から差し込む夕日が、初めて少年の小さな手元を優しく照らしていました。
職人編02
リュミエールで最大の飲食店。その店主ルーカスは、街で評判の腕利き料理人でした。
「俺の作る料理は最高なんだ。店をもっともっと大きくしてやる!」
彼はそう信じ、仕事に全てを捧げていました。長年の友人との約束も、大事な家族との時間も捨て、すべてを料理に費やしてきたのです。
その甲斐あって、お店は大繁盛。順調な生活……のはずでした。
ある日、ルーカスは突然倒れ、意識を失ってしまいます。
目が覚めた時、数日が経過していました。
「俺の店は…どうなった?」
慌てて店に駆けつけたルーカスは、立ち尽くしました。厨房では友人エミールが鍋を振り、両親がホールで笑顔を向けています。店内ではどこから聴こえてくるのか陽気な歌が流れ、常連客たちは賑やかに食事を楽しんでいました。
「この店、お前の大事なものなんだろ?」
エミールは振り向き、笑いながらそう言いました。
「俺は…お前たちを遠ざけて店のことばかりだったのに……」
ルーカスは厨房の隅に腰を下ろし、賑やかな店内を静かに見つめました。自分一人では守れなかったこの店。そこには、彼がずっと見落としていた「温かさ」が確かに満ちていました。
鍋から立ちのぼる湯気と、客たちの笑い声。そのすべてが、ルーカスの心をじんわりと満たしていきました。

吟遊詩人編01
星空が広がる丘の上。
リーナは夜風に髪を揺らしながら、透き通る歌声を星々に届けていました。
その声は自由で、どこまでも伸びやかでした。でも、不思議なことに、その歌声は丘の外へは一歩も届きません。
───ジャリッ……
小さな足音が響き、リーナはハッとして振り返りました。そこには、ギターを抱えた旅の音楽家が静かに立っています。
「素敵な歌声だね。でも、どうして一人で歌っているんだい?」
リーナは一瞬怯えたような顔をしましたが、小さな声で答えました。
「誰かに聴かれたら…笑われるかもしれないから。」
旅の音楽家は穏やかに微笑み、ギターの弦をそっと弾き始めました。
「星たちは笑わないよ。君の歌声に耳を傾け、光を降らせているんだ。」
その優しい音色に導かれるように、リーナは震える声で歌い始めました。
最初はかすかな声でしたが、ギターの音に重なるうちに、リーナの歌は夜空を突き抜けるように広がっていきました。
歌い終えたリーナの表情には、小さな自信と優しい輝きが宿っていました。
旅の音楽家は静かに立ち上がり、夜風に紛れて去っていきます。もうリーナの歌声は、孤独な丘だけに留まるものではありませんでした。
星空の下、どこまでも遠く、誰かの心にそっと届いていくのでした。
あの日ギターの音色に寄り添ってもらったように。
吟遊詩人編02
広場の通りで、若い音楽家エルヴィンはギターを抱え、演奏を終えました。けれど、周りに拍手はなく、人々は足早に通り過ぎていきます。
「どうして…誰も足を止めてくれないんだ?」
少し先では、別の音楽家が笑顔で拍手を浴び、観客たちが楽しそうにコインを投げ入れていました。エルヴィンの胸に、じわりと悔しさが広がります。
「僕の方がいい曲を作ってる。あんなありきたりなメロディより…!」
その日から、エルヴィンは周りを見ては自分の音楽と比べ、心を削るように演奏を続けました。音は次第に硬く、どこか尖ったものに変わっていきました。
それでも客は立ち止まらず、むしろ距離を取るように通り過ぎていきます。
「どうして…何が違うんだ?」
苛立ちを抑えきれず、エルヴィンは弦を強く弾きました。ブチンッ――濁った音を立てて、弦はちぎれてしまいました。
その時、広場の向こうから、小さな音が聞こえてきました。静かなバイオリンの音色です。
木陰でひとりの音楽家が、静かに弦を奏でていました。その音は優しく、温かく、まるで風に乗る光のように暖かく包み込み、誰かを想うような音色です。
エルヴィンは手を止め、息を呑みました。そして、ちぎれた弦を握りしめながら、その音にじっと耳を傾けました。

探偵編01
広場の片隅、古びた噴水の縁に小さな紙片が風に舞います。
あなたは何気なく足を止め、その紙を拾い上げました。
「こたくこすけくて、さどみこしどい。だくれかとおどはなこしくしこたくい。」
意味を成さない文字列ですが、どこか「言葉」が隠されているような違和感があります。
裏面を見ると、宛先にはこう書かれていました。
「消えない孤独 宛」
一瞬、背筋に冷たい風が通り抜けた気がしました。
誰が誰に向けて書いたのか?これはただのいたずらか、それとも——。
広場を見渡すと、人々は足早に通り過ぎ、誰一人としてこの紙に目を止める人はいません。
何かが引っかかる。何かが、この紙に隠されている…。
不思議な文字列をもう一度目で追い、口の中でそっと繰り返してみます。
しかし、答えはまだ見えません。
ふと、噴水の水面に揺れる光があなたの足元を照らしました。
その瞬間、かすかに小道の奥から誰かの足音が聞こえたような気がします。
あなたは無意識に手紙を握りしめ、噴水の影に続く小道へと足を踏み出します。この紙片は、導きなのか。それとも、罠なのか。
その答えを知るために、あなたは静かに小道の闇へと進んでいくのです。
探偵編02
小道を抜けた先には、ひっそりとした裏路地が広がっていました。
湿った石畳に滲む月明かり、錆びついたランタンが微かに揺れ、静寂が重く辺りを包んでいます。その先に、ぽつんと一軒の寂れた建物が見えました。
わずかに開いた扉の隙間から、あなたは中をそっと覗き込み、誰もいないことを確認すると家の中へと入っていきました。
部屋は薄暗く、時間が止まったかのように静まり返っています。壁には一枚の古びた張り紙が───。かろうじて読めるかすれた文字でこう書かれています。
「背負うものが重すぎた者は、時に立ち止まる。」
部屋の古びた木の机には、折れた羽ペンと乾ききったインク瓶が置かれており、まるで誰かがここで物語を書き綴ろうとして、どこかへ去った様子です。
そのかたわらに置かれた一枚の紙切れには、こんな言葉が残されていました。
「この物語は、誰かが続けなければならない。」
その言葉はひっそりとした部屋に溶け、どこか遠くへ吸い込まれていくようです。
「……誰が、こんな手紙を?」
ふと足元に目を落とすと、泥にまみれた大きな靴跡が続いています。
靴跡の持ち主はどこへ向かったのか——。
そして、この物語が途絶えたことと、どんな繋がりがあるのか。
答えは濃い霧の向こうに隠され、まだその真相を見ることは叶いません。けれど、どこかで確かに、物語はまだ続いている。
あなたが次の一歩を踏み出す、その先に。

異世界の冒険者たちがストーリーを作り出すと、徐々に住人の心に巣食う影が消え始めます。ルミナスオーブが輝きを取り戻しだしました。
完結編
人と人とが、言葉を交わし、心を通わせるたびに——
街に、そしてオーブに、小さな光がぽつり、ぽつりと灯り始めました。
異世界から来た者たちは、迷いや恐れを抱える人々に、そっと手を差し伸べました。
涙を拭う言葉。誤解をほどく笑顔。共に立ち向かう勇気。
そのひとつひとつが、リュミエールの街を少しずつ照らしていくのです。
広場には、子どもたちの笑い声が戻り——
街角では、人々が立ち止まって言葉を交わし——
酒場では、見知らぬ者同士が肩を並べ、心を開いて語り合いました。
祭りの明るい喧騒が街を包み込み、夜空には、かつてのような輝く光が広がります。
けれど、それですべてが終わったわけではありません。
街の片隅にはまだ、小さな「フアン」や「キョウフ」たちが、息を潜めています。
彼らは完全には消え去らない。だけど、その囁きは弱く、遠くなり、
もう簡単には、人々の心を覆い隠すことはできなくなったのです。
それは、人々が信じ合い、支え合う——
最高の“魔法”を手に入れたから。
リュミエールの光は、再び強く、温かく、街全体を包み込み始めました。
かつてリュミエールは美しく活気あふれる街でした。
「ルミナスオーブ」が輝き、人々は笑顔で言葉を交わし、心を通わせ、共に生きていました。
けれど、街がどんどんと便利になり、魔法が人々の生活を支えるようになると——
何でも一人でできるようになり、言葉や触れ合いの機会は少しずつ減っていきました。
頼れる技術が増えて生活は便利になりましたが、つながりと共に人に頼り支え合う心がいつしか薄れていったのです。
小さな不安や恐れ。
誰かと比べてしまう心。
ひとりで抱える孤独。
それらは人々の心に積もり積もって、やがて吐き出され——
「フアン」「シラナイ」「キョウフ」「ヒカク」「イソガシ」という5つの影が生まれました。
彼らは外からやってきた敵ではありません。
人々自身の心が生み出した影——
それが街全体に暗い影を落としてしまったのです。
けれど、まだ間に合う。
——本当に便利さだけが、大事なのだろうか?
——大切な人との時間を削ってまで、得るべきものなのだろうか?
——本当に、大事なことって何だろう?
誰もが心の奥で小さく、けれど確かに問いかけ始めていました。
広場の片隅で、5つの影は少しずつその存在意義を失い始めていました。
「ヒカク」は、パン屋の軒先から商人たちの笑顔をじっと見つめていました。
「あいつより、もっとすごいパンを…」
そう焦る心が、小さく揺れています。
けれど、一人のパン職人が優しく言いました。
「みんなが喜ぶパンを、一緒に作らないか?」
その言葉は温かく、まっすぐで——
「ヒカク」は、ふっと力を失い、その姿を静かに消しました。
「フアン」は道端で立ち尽くす少女のそばにいました。
「ちゃんと謝れるかな…」
小さく震える彼女の手を、友達が優しく握ります。
「一緒に行こう。君なら大丈夫だよ。」
その言葉に、少女は小さく頷き、一歩を踏み出しました。
「フアン」は霧のように薄れ、そっと消えていきました。
「キョウフ」は暗がりに潜み、人々の足を止めていました。
しかし広場では、一人の少年が震える足でステージに立っています。
「怖いけれど、誰かに伝えたい言葉があるんだ。」
その声は震えながらも力強く、会場には大きな拍手が広がりました。
「キョウフ」はその拍手に包まれ、静かに姿を消しました。
「シラナイ」は街角に立ち、通り過ぎる人々に冷たい視線を送り続けていました。
道の真ん中では、老人が重そうな荷物を抱えて困っています。
誰も立ち止まらず、視線をそらし続けました。
その時、一人の女性が足を止め、優しく声をかけました。
「大丈夫?手伝おうか。」
その言葉に、老人の顔がほころびました。
「シラナイ」は小さく息を吐き、ゆっくりと消えていきました。
「イソガシ」は、忙しそうに動き回る商人の肩に重くのしかかっていました。
「時間がない、時間が…」
その呪いのような言葉が、何度も商人を急かします。
しかし、商人はふっと立ち止まり、近くにいた子供に微笑みかけました。
「少しだけ、一緒にお茶でも飲もうか。」
その一瞬の穏やかな時間に、「イソガシ」は肩から滑り落ち、影を薄めていきました。
5つの影は、もう街を覆うほどの力を持ってはいませんでした。
代わりに広がっていたのは、言葉の温かさ、笑顔の優しさ、そして人と人との確かなつながり。
リュミエールの街は、少しずつ、光を取り戻し始めていました。
リュミエールの街には、再び光と笑顔が戻ってきました。
広場には子供たちの明るい笑い声が響き渡り、酒場では人々が肩を並べて語り合います。
誰かが困っていれば、すぐに手を差し伸べる姿がありました。
魔法の光だけではなく、人々の心と心が繋がる温かい光が、街全体を優しく包んでいます。
それはかつての街よりも、ずっと美しく、ずっと強い光——。
そして、あなたに伝えたいことがあります。
勇者がページから消えた時、この世界は止まってしまうはずでした。
でも、救ったのはあなただったのです。
あなたが紡いだ言葉、
あなたが差し伸べた手、
あなたが踏み出した一歩
それらすべてが、リュミエールを救ったのです。
だけど……物語を盗んだのは、一体誰だったのでしょう?
またいつか、光が失われそうになった時
私たちは、あなたを呼びつけるかもしれません。
だから、その時はどうか——
もう一度、あなたのその心を貸してほしい。また会うその日まで。
ここでリュミエールの不思議な絵本は完成しました。リュミエールの街は今まで以上に活気に満ちています。でも、なぜページが無くなってしまったのか——
最後にシークレットページを用意しています。
シークレットページ
かつて「勇者」は、何度も何度も立ち上がり、世界を救ってきました。
人々のために、街のために——心を砕き、力を振るい続けました。
けれど、世界は変わりませんでした。
どれだけ影たちを追い払っても、人々の心には小さな影が残り、また同じ過ちを繰り返してしまうのです。
「世界を救うことに、人々を助けることに意味はあるのか…?」
勇者は静かに剣を置き、絵本を手に取ると、暗闇の中でぽつりと呟くのです。
「みんなのための世界を、“勇者”である僕一人が救うことって、本当に正しいことなのかな。」
そして彼は自分のページを消し、物語を盗みました。
その時、背後で影が勇者の足元から立ち上がり、ゆっくりと老人の姿を形作ります。
「それが君の答えかい?なら、君も私たちと一緒に来るといい。」
老人は穏やかに問いかけました。勇者は何も答えずゆっくりと街の方を眺めます。
リュミエールには、今、光が戻っています。今までで一番温かく、優しい光が——。
けれどきっとまたその光も小さくなり黒い影に飲まれてしまうのでしょう。
光に背を向け、孤独な老人と孤独な勇者は静かに歩き去っていきました。そして老人はふと振り返り、街の光を見つめながら小さく微笑みました。
その横顔には、まるで物語のすべてを知る者のような不思議な気配が漂うのでした。